自己破産は財産を処分して債務を整理するための手段

自己破産には、管財事件と同時廃止事件と呼ばれるものの2つがあります。それぞれの手続きでは自己破産の流れが全く違います。ですから、自己破産を行うときにはまずどちらのケースに該当しているのかということを知っておく必要があります。

自己破産は債権者には不利な手段

基本的に、自己破産を筆頭とした債務整理は債権を有している債権者にとって非常に不利な手段です。ですから、必要以上に債権者の立場が危うくならないように気を付ける必要があります。いくつかの条件を用意して債務者に順守させるのも、そのためです。

債務者の権利が守られる理由

債権者は、契約を締結して債務者にお金を貸している場合、そのお金を返済するように要求することができます。この権利は、法律に基づいて行われているものであるため、契約上の範囲内ならば債務者に対して取り立てなどを行うことも一定範囲で認められています。貸したお金を回収することができなくなってしまうと、それらを不良債権として処分しなくてはいけなくなるからです。
しかし、こういった取り立てなどが認められている一方で、債務者にも一定の基本的な人権が認められています。この代表的なものが、生活水準に関連する人権です。日本国内で生活をする日本人は、憲法によってどういった環境下であっても一定の生活水準を保ったまま生活をすることができるように保障がされています。ですから、債務の履行を求める人物や会社は、この基本的な人権を害さない範囲内で取り立てなどをしなくてはいけないという前提が存在するのです。
そして、債務者のこのような基本的な保障が守られなくなるケースが存在するときには、借金をしている人を救済する手段として自己破産などを利用することができるようになっています。

債務者と債権者のバランス関係

債務整理を利用する際には、債務者と債権者のどちらかが一方的に不利になり過ぎないように気を付けなくてはいけません。特に、債務整理は元々債務者を保護するために考えられた法律的な手段であるため、債務者を救うことを前提として交渉や手続きを進めていくことが基本です。この場合、債権者側の権利が著しく侵害されてしまうケースも多いため、このバランスを考えなくてはいけません。
特に、自己破産ではこの側面が非常に強いといえます。自己破産の場合は、手続きが通ってしまうとそれまでの契約上の関係は最初から存在しなかったことにされてしまいますので、文字通り不良債権として貸したお金の回収が不可能になってしまいます。このときに生じる金銭的な損失は、たとえ借金を返済することができなくなった債務者に非があったしても、債権者側が負担をしなくてはいけません。ですから、自己破産などの手続きの申請を行う際には最大限にお金を返済してもらえるように裁判所側も工夫をして手続きをしています。残った財産などの扱いは、債務者本人が決めることができるわけではありませんので、こういった部分でバランスをとってより良い結末を迎えられるように努力をしているのです。

管財事件で財産を処理する

自己破産のうち、管財事件は残されている財産的な価値のあるものを裁判所側が処分する案件のことを指します。ただ、全ての財産について裁判所自身が手続きをするわけではありません。不公平や負担のないように考慮して、効率的に処分をしていきます。

残った財産は公平に弁済される

自己破産などの債務整理を理解するうえで大切なのは、債権者に平等な対応が求められるという原則が存在するということです。これは、法律的な観点から債権者平等の原則と呼ばれています。
基本的に、債務者は債務を履行する義務を背負っているのですが、この義務は公平に履行されなくてはならないという背景があります。例えば、一部の債権者に対してだけ都合よくお金を返済していくことは認められず、権利を有している人に対して公平にお金を返さなくてはいけません。
実は、これは自己破産などの債務整理にも適用されます。確かに、自己破産は手続きを行うと借金の契約を無かったことにできます。しかし、その効果は権利を有している全体に及ぶことになりますので、一部の債権者の権利だけが消滅するわけではありません。全てが等しく消えるという事実があるわけです。これは、財産が残っているときも同じです。自己破産を利用する際に財産残っていときも、自己破産の効果と同じように等しく同じように効果を発揮しなくてはいけません。ですから、管財事件では残された財産もそれぞれの権利者に公平に分配されるのです。

管財人が処理を行う手続き

管財事件は、裁判所が選任した破産管財人という人たちが扱う案件です。財産の処分も、具体的にはこの人たちが行うことになります。裁判所は、毎日いくつもの案件を扱っていますので、直接的に業務を全て行っていると時間がいくらあっても足りません。そこで、裁判所は必要な手続きが存在すると考えたときに、いわゆる外注のような形で破産管財人という人たちを選んで、その人たちに自己破産に関連する財産の処分を行ってもらっています。これが、管財事件の内容です。
破産管財人は、一般的に登録をしている弁護士から選任されますので、法律的なスペシャリストと考えて間違いありません。単純に財産を分配して債権への弁済とするわけではなく、どういった価値が存在するのか、そして現金に換金するとどの程度の資産になるのかというところまで具体的に検討します。
個人が利用する管財事件では、手続きで大きな金額になり過ぎないように少額で話を進められるようにしていることがほとんどです。最初に予納金というお金を納めることになりますが、これらの負担を減らしながら個人でも使いやすいように簡略化してくれています。

普通は例外的な同時廃止事件

同時廃止事件は、自己破産の中でも資産価値が存在するものがほとんどないときに該当します。自己破産では、管財事件が通常であり同時廃止事件は限定的な案件に限られていますが、個人の利用ではこの限りではないためこの違いは理解しておきましょう。

自己破産を行う債務者の特徴

自己破産を利用する債務者は、他の債務整理を利用する人たちと比較しても明らかに異なるポイントが存在します。それは、借金を返済することができないという点です。
例えば個人再生も、確かに借金の総額を減らすことができる手続きには違いありません。しかし、個人再生には債務者の返済の意思があるという明確な違いが存在します。個人再生は、再生手続きを開始する前に計画案によって本当に返済ができるのかを確認していくことになります。この場合、自己破産と違って重要な財産を処分する必要はありません。返済をする意思が存在する場合には、債権者側も後年で自身の債権を回収することができる可能性が高いからです。
一方で、自己破産の場合にはこういったことを想定できないという事情があります。そもそも、返済するだけの資産力を既に有しておらず、現金に換金できるような財産的な価値が存在するものもない可能性があるからです。このようなケースでは、債権者に対して財産を分配することはできないですし、破産手続きで債務の弁済を可能な限りを行うことができません。そのため、同時廃止という手続きが用意されているのです。

手続きと廃止が同時に行われる

同時廃止案件では、破産手続きが始まったのと同時に廃止の決定も行われます。そもそも、財産的な価値の存在するものがないということは、破産管財人に対する報酬を支払うこともできないということを意味します。破産管財人は、裁判所によって選定された弁護士であるため、その人たちに対する報酬も費用の中に含まなくてはいけません。しかし、手続き開始直後から資産が存在しないとわかっているケースでは、このようなお金を支払うことができないということも裁判所側は把握しています。そこで、無駄なコストが生じることがないように、手続きと廃止を同時に行うように工夫をしているのです。こうすることによって、無駄な部分をすべて無くすことができます。
現実的にも、破産手続きの廃止は残っている財産を現金に換えても、費用すら支払うことができないような状況のときに適用されるものです。管財事件と比較すると、非常に簡易的に手続きを終わらせることができるという特徴があります。法人の場合は例外的なケースに違いはありませんが、個人の場合には実は6割から7割程度がこのケースであるというデータも存在しますので、法人と比較するとより利用される可能性が高いとも解釈されています。

同時廃止の問題点と対処法

同時廃止は、簡易的に手続きができるとあって債務者には有利な手続きです。しかし、過去に問題点も生じていることも事実です。そういった経緯を得て利用できるものであるため、法律的な対処法を理解しながら利用することが大切です。

個人の債務者でも使える工夫

自己破産は、個人の債務者が利用しようと考えるときには30万円から40万円の予算をあらかじめ準備しておく必要があります。借金苦で悩んでいる人にとっては高額な費用に違いありませんが、これでも債務者の事情を考慮して安く設定されている方です。
まず、内訳の費用で重要なのが自己破産の代行手続きを行ってくれる弁護士への報酬です。これは、着手金などを含めて計算されますので必ず用意しなくてはいけません。また、裁判所への費用も実はここには含まれています。具体的には、破産管財人への報酬としていくらかのお金を支払わなくてはいけません。管財事件では、裁判所に対して自己破産を行うための予納金というお金を納めなくてはいけませんが、これは破産管財人への費用が考慮されているからです。しかし、高額な予納金を準備するとなると個人の債務者が自己破産を使いづらくなってしまいます。そこで、最低限の予算として30万円から40万円程度の相場で自己破産ができるようにしているのです。
こういった、個人向けの自己破産への配慮をした案件を少額管財といいます。これは、一般人の自己破産の観点からは非常に利用しやすいように作られています。

同時廃止を安易に使えない理由

債務者にとって一番良い自己破産の形は、同時廃止です。破産手続きの開始と同時に終了しますので、非常に短期間で債務者の借金の負担を軽減できるというメリットがあります。実際に、過去には個人への自己破産の手段としてこの同時廃止はかなり重宝されていました。
しかし、効率的に行える同時廃止を重宝するあまり、法律的な問題点や抜け穴が見つかってしまいます。その代表的なものが、虚偽申告です。同時廃止の効果はすぐに現れますので、虚偽申告をしておけば事情がバレる前に自己破産の手続きが終わってしまうという問題が発生していました。しかも、この方法では破産管財人を選任することもありませんので、実は債務者の財産の状況を具体的に調べることができないという背景もありました。現実的にも、具体的な財産やそれに伴う資産価値のあるものを調べるのは破産管財人の仕事です。そのため、同時廃止を乱用することができないように、通常の金額よりかは安いとはいえ、きちんと予納金を納めるように勧めることになったのです。
こういった少額管財の方法を採用していれば、権利を奪われる債権者側も最低限の債務の弁済を期待することもできます。

まとめ

管財事件も同時廃止事件も、債務者の借金の現状を改善するために利用される自己破産に違いありません。大切なのは、債務者だけではなく債権者にとっても最低限、納得のいく形で手続きを進めていくことができるかということを考えることです。

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